中小企業のデザイン経営支援を実装するとは ― 滋賀県の漆器メーカーにおける5ヶ月伴走プロセス ―
- 深沢 光

- 1 日前
- 読了時間: 4分
地域中小企業におけるデザイン経営支援の実装プロセス
― 渡邊美術工藝様・5ヶ月の伴走支援から見えた成果と示唆 ―
中小企業におけるデザイン経営は、単なるデザイン改善ではなく、経営そのものを再設計する取り組みです。本記事では、創業100年を超える漆工芸企業・株式会社渡邊美術工藝様への5ヶ月間の伴走支援を通じて実装した「中小企業のデザイン経営支援」のプロセスと成果を紹介します。机上論ではなく、地域中小企業の現場で何が起き、何が変わったのか。その実践に基づいた記録となります。
中小企業のデザイン経営支援とは何か
■「デザイン=見た目」では成果が出ない理由
中小企業の現場でよくある誤解が、「デザイン=ロゴやビジュアルを整えること」という認識です。しかしそれだけでは、売上も信頼も持続しません。
デザイン経営とは、価値の定義 → 伝え方 → 売り方 → 組織の動き方までを一貫して設計する経営手法です。
■デザイン経営を“経営支援”として設計する視点
デザインラボでは、デザイン経営を「制作支援」ではなく「経営支援」として位置づけています。全体像については、以下のページで詳しく解説しています。
▶ 中小企業のデザイン経営支援の全体像はこちら
プロジェクト概要|渡邊美術工藝様の挑戦
■企業概要と対象商品
渡邊美術工藝様は、100年以上にわたり漆工芸を継承してきた老舗企業です。本プロジェクトでは以下の2商品を対象としました。
常喜椀:祝い文化と地域文脈を持つ高付加価値漆椀
うるし玉 Naderu:漆×ウェルビーイングをテーマにしたグローバル向け商品
支援期間と支援内容
期間:2025年7月14日〜12月13日(約5ヶ月)
支援内容:
ブランディング設計
販売戦略立案
販売戦略遂行における伴走支援
短期売上ではなく「ブランド資産化」を目指した理由
本プロジェクトの目的は、短期的な売上最大化ではありません。中長期で売り続けられる状態をつくることをゴールに設計しました。
プロジェクト初期に見えていた3つの課題
■販売戦略の不在と価値軸の混在
ブランド価値が伝わらないという課題
技術や歴史的価値は高いものの、それが初見顧客に伝わる形で言語化・構造化されていませんでした。
販売戦略の不在と価値軸の混在
「常喜椀」と「Naderu」の価値軸や市場が整理されておらず、販売文脈が曖昧な状態でした。
営業の属人化と営業DX未整備
商談・展示会・ECで使える統一資料がなく、営業が人に依存する構造になっていました。
全体設計方針|デザイン経営を実装するための共通フレーム
二軸ブランド戦略の確立
常喜椀:祝い文化 × 地域文脈 × ギフト市場
Naderu:漆 × ウェルビーイング × グローバル市場
「モノ」ではなく「物語+体験」を売る構造へ
五感や精神性、背景ストーリーを購買理由として設計しました。
BtoBとD2Cを両立する販売基盤づくり
百貨店・展示会・商談と、EC(BASE)を並行設計し、販路を分断しない構造を構築しました。
営業DXを組み込んだ理由
ブランドブックやラインシートを軸に、誰が説明しても価値が伝わる営業へ転換しました。
5ヶ月間の実装プロセスと進行サマリー
7–8月|基礎戦略・言語化フェーズ9月|ブランド可視化フェーズ
市場分析、ブランド戦略策定、価値の言語化を実施。
9月|ブランド可視化フェーズ
ブランドブック、トーン&マナー、ロゴ設計。
10月|販売基盤構築フェーズ
BASE公式EC構築、商品登録、価格設計。
11–12月|販路拡張・検証フェーズ
商談・展示会・ECデータをもとに検証と改善。
具体的な成果|デザイン経営は何を変えたのか
ブランド資産という「無形の成果」
今後も繰り返し使えるブランドブックや営業資料という無形資産を獲得。
販売基盤とデータ活用の実装
平均単価:26,400円
SNS流入:約80%
営業DXによる属人化からの脱却
人に依存しない営業ストーリーが確立されました。
中小企業にとっての示唆|なぜ「売る前に整える」のか
売上は“結果”であり、ゴールではない
売上は設計の結果として生まれるものです。設計を飛ばして売ろうとすると、持続しません。
デザイン経営は再現可能な経営手法である
今回の取り組みは、特別な企業だから成功したのではありません。設計すれば、再現可能な手法です。
まとめ|売るためではなく、売り続けるためのデザイン経営
本プロジェクトは、「売るための支援」ではなく「売り続けられる状態をつくる支援」でした。
デザインラボでは、地域中小企業の実情に寄り添いながら、デザイン経営を“実装”する支援を行っています。
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