なぜ中小企業のデザイン経営は「制作」から始めてはいけないのか
- 深沢 光

- 1 日前
- 読了時間: 4分
中小企業が「デザイン経営」に取り組もうとしたとき、多くの場合、最初に検討されるのはロゴ制作やWebサイトの刷新、パンフレットの作成といった“制作物”です。しかし、制作から着手した結果、思うような成果が出ず、「デザイン経営は意味がなかった」と感じてしまう企業も少なくありません。
本記事では、なぜ中小企業のデザイン経営は制作から始めてはいけないのか、その構造的な理由と、成果につながる正しい進め方を解説します。
中小企業がデザイン経営=制作と誤解してしまう理由
■デザイン=見た目、という認識が根強い
多くの中小企業において、「デザイン」という言葉は今なお「見た目を整えること」として捉えられがちです。ロゴを変える、Webをおしゃれにする、パンフレットを刷新する――これらは確かにデザインの一部ですが、経営そのものを変える力は限定的です。
■外部に依頼しやすいのが「制作」だから
制作物は発注しやすく、成果も目に見えやすいという特徴があります。そのため、「まずは何か形にしよう」と制作に着手してしまうのは自然な流れとも言えます。
しかし、この時点で経営視点の設計が抜け落ちていることが、後のズレを生みます。
制作先行型デザイン経営が失敗しやすい3つの構造
1. 何を伝えるべきかが決まっていない
制作を始める前に、「誰に」「何を」「なぜ伝えるのか」が整理されていないと、表現は必ずブレます。結果として、見た目は整っているのに、価値が伝わらない制作物が出来上がってしまいます。
2. 制作物が使われなくなる
制作した当初は活用されていても、営業現場やWeb更新の中で使われなくなるケースは珍しくありません。理由は明確で、現場の運用に耐えうる設計になっていないからです。
3. 「デザイン=コスト」という認識が強まる
成果につながらない制作は、やがて「やはりデザインは費用対効果が見えない」という評価につながります。これはデザイン経営そのものへの不信感を生み、次の改善機会を失う原因にもなります。
デザイン経営で最初に設計すべきものとは何か
■制作物ではなく「価値の構造」
デザイン経営において最初に行うべきは、制作ではありません。事業の価値を構造として整理することです。
自社は何を強みとしているのか
誰にとって、どんな意味を持つのか
なぜ価格や選ばれる理由が正当化できるのか
これらを言語化・可視化し、社内外で共有できる状態をつくることが出発点になります。
■経営・営業・制作をつなぐ共通フレーム
価値の構造が整理されることで、
営業での説明
WebやECでの表現
展示会や商談資料
が一本のストーリーでつながるようになります。この状態をつくることこそが、デザイン経営の本質です。
中小企業のデザイン経営は「支援設計」から始める
■制作ではなく、設計と伴走が必要な理由
中小企業におけるデザイン経営は、一度つくって終わる取り組みではありません。現場で使われ、改善され、育っていく必要があります。
そのため重要なのは、制作を前提とした支援ではなく、実装を前提とした支援設計です。
経営者の考えが整理されているか
現場で運用できる形になっているか
改善を繰り返せる余地があるか
これらを確認しながら進める「伴走型支援」が欠かせません。
実装事例から見る、正しいデザイン経営の入り口
滋賀県の漆器メーカー様を対象としたデザイン経営支援では、ロゴやWeb制作から始めることはありませんでした。
まず行ったのは、
ブランド価値の言語化
販売文脈の整理
営業・EC・展示会で共通して使えるストーリー設計
その結果、制作物は後から自然に必要な形で生まれ、現場で使われ続ける資産となりました。
この実装プロセスの詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ|デザイン経営は「つくる前」に勝負が決まる
中小企業のデザイン経営がうまくいくかどうかは、何をつくるかではなく、つくる前に何を整理したかで決まります。
制作はあくまで手段です。価値の構造と運用の設計がなければ、デザイン経営は機能しません。
だからこそ、中小企業のデザイン経営は制作からではなく、設計と支援から始めるべきなのです。



